モ*クシュラ

ノート

2023.06.11[その他]

451ブックスでの写真展「風をこぐ」が終了するにあたり思い出したこと

現在、開岡山県の451ブックスで開催いただいている写真展「風をこぐ」は、まもなく会期終了となる。刊行してからこれほど長く全国を巡回させて頂けるとは思ってもいなかった。

 

刊行してから間もなく2年。時間の経過とともに、写真集を出版するまでのことを忘れてきていることに気づき、備忘録として印象的だった著者とのやりとりを書いておく。

 

欧文のタイトル「to low the wind」という直訳の表現について、「against the wind」にしてはどうか、と私が提案したことがあった。「風をこぐ」は、後ろ足に障害あるゆえに前足で風を漕ぐように歩く一匹の犬(=フウ)の姿から橋本さんが付けたタイトルだが、この「風」には時代とか社会の意味合いもある。だから、「against the wind」(「風」に立ち向かう)にはその社会や時代に抗う、という抵抗の意味合いがある。

 

このタイトルを提案したのは、普段から自分語りをしない橋本さんの人間性に美しいものを感じつつ、本と読者をつなぐ自分の役割を思うと、語らせないままでよいのか、なにか後ろめたさを感じたせいでもあった。橋本さんの幼少期は複雑で、一般的なルートを歩んでこなかった、その生き方の根底にあったかもしれない社会への怒りを、せめて欧文のタイトルに託してはどうか、そう思っての提案だった。

橋本さんは私の提案を受けてすぐ、こう言った。「自分としては、読者を分かりやすく誘導するような表現は避けたい。それに、立ち向かって生きてきたことは、すでに原稿に充分書いてある」。たとえばそれは、フウの胸元の盛り上がりを「12年間、後ろ脚をおぎない支え続けてきた前脚」だと書いた描写などで、そういう描写から、フウと自分がどんなふうに生きてきたかを読みとってくれる読者はいるはずだ、と。

橋本さんとのこんなやりとりは本ができるまでに何度もあった。その多くを忘れてしまったけれど。